第五十九章 カブ式会社YUSYA
すっかり雪も解け、姿を現した「約束の地」を前に勇者ソーマは妄想に馳せていた。
ソ「…」
ナ「はじまりの木、今年は花めっちゃ咲きそうやな」
ソ「うむ。去年は開花せんかったから、嬉しい」
3年前に植樹した「はじまりの木」はみるみる成長し、既に私の身長をゆうに超えている。
ソ「改めてみるとでけぇな」
ナ「うん。しっかり育っとる」
ソ「リリコが土と肥料入れてくれたな」
ナ「今年は何植えるの?」
ソ「とりあえず、じゃがいも。カレーかポテトチップスにする」
去年から始めた、ギルド畑。伐採作業後の勇者たちに振る舞う作物を育てる場所だ。
今年は出来ればもう1面増やして、落花生、ブロッコリーなども計画中である。
こちらは植えられるのを待つ、じゃがいも一陣目。
ソ「階段もあと少し作ってまわなアカン」
ナ「あと少しやから春には完成するやろ」
何の計画も無しに切り出した木を使って、YouTubeで見様見真似で作った階段だが、割としっかり出来ている。
これから、この地を開拓するにあたり、機材を運び込むのには便利だろう。
ソ「さて、どっから手つけるかな」
ナ「ホンマにBBQ場作るん?YouTubeに作り方あるの?」
ソ「さすがにBBQ場の作り方はYouTube先生にもないやろ。でも安心して。フィールドマスターに協力要請したから」
フィールドマスターとはアウトドア、キャンプ、サバイバルに精通し、
何もないフィールドを自らの力で切り開く能力を持つマスタージョブを指す。
ナ「フィールドマスター、何て言うてた?」
ソ「BBQ場やるなら、この斜面部分を段々に整地して、6面ほど作れると思うと言ってた」
「約束の地」の奥側にある斜面部分。
ここを整地するのにどれぐらいの労力がいるのか見当もつかないが、
我々、勇者とギルド団の力があれば必ず達成できると信じている。
ナ「伐採用の募金は終了させるとして、こっちの開拓にもお金はかかるやろな」
ソ「少しだけ募金を転用はできないの?」
ナ「それは絶対アカン。元々、伐採整備用に集めたものをまったく使用用途が違うものに使うのはアカン」
ソ「まぁ、そりゃそうやな…」
ソ「…会社しかないな」
ナ「えっ?何言うてんの?」
ソ「もうここから先は開拓用の資金を集める、いうなれば投資に近いものや。だから、俺は会社を作ろうと思う」
ナ「いやいやいや、そんなん絶対無理やろ」
ソ「いや、出来る。その名も…カブ式会社YUSYAや!!」
ナ「!?」
かの有名な鉄腕○ASHの○OKIOさんたちもやっているように、我々も疑似会社を設立する。
1カブ=○円で投資してもらい、開拓を進め、この地に極楽浄土が作られたあかつきには、施設やサービス利用の優待権を発行する。
もちろん投資してくれた方にはカブを現物で差し上げる。
ナ「それ完全に、某動物のフォレストやん」
ソ「あれはゲームやろ。こっちはリアルにカブ配るねん」
ナ「そんなんもらっても困るやろ…」
私には見えている。
はじまりの木を中心に整備されたこの地で、家族連れのファミリー層がBBQを楽しむ姿が。
そして、小さいながらも賑わいを見せる様子が。
我が辞書に不可能の文字は無い。(あっても削除する)
この1年、勇者ソーマに蓄積された”やる気”パワーが解き放たれた時、周囲の人間は大変な苦労と迷惑をこうむるであろうが、
まぁ、さっさと諦めて付き合って。
よろぴこ☆。
次回
今年のSAKURA LAKE FAESTIVALの準備に追われる面々。
野外からの生配信は、果たしてうまくいくのだろうか。