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2018. 12. 28

第二十四章 聖なる知恵の泉

巷では遠い異国の神の誕生を祝う日が迫る中、

平均年齢37歳の男4人とキツネの娘は、とある儀式を始めようとしていた。

 

ソ「ナーバルンバ、ミルウサアイキンウフ・ルバ」

四「ダー、ダー」

 

言っておくが、我々は決して悪魔崇拝者や秘密結社やUFO研究家などではない。

これは、聖剣を抜きし勇者に代々伝わる儀式で、年の瀬にSAKEと呼ばれる聖水を飲みながら、聖なる賢者に料理を捧げることで、桜を救う知恵を授かることができるという言い伝えに基づくものだ。

ソ「やばい…なんだか知恵が溢れ出てきた…」

森「お、おれも…」

キ「頭の中に囁き声がっ…」

ナ「…何もないけど?」

サ「僕も何もないですね。ホンマにこんなんで、知恵授けてくれるんですか?」

ソ「ナカムラとサコディ。そなたたちの邪心が、賢者の声を邪魔しておるのだ」

ナ「で、何思い浮かんだん?」

我々が、今日、集まったのは他でもない。

来年以降の活動について、春夏秋冬のレベルアップクエスト以外にも、何か新しい取り組みが無いか案を考えて持ち寄る日なのだ。長老も参加したいとの事で合流。

しかし、なかなか思いつかないので、儀式によって賢者の知恵を頼る事にしたのだった。

 

森「お、俺、すごいの思いついた!!!!」

長「申してみよ」

森「マラソン!!」

ナ「マラソンて、あのマラソン?」

森「そう!多くの人々が桜ヶ池の周りを走っている姿が見える…」

キ「健康的…」

サ「間野山ウォーキングがあることを考えると、あながち的外れとは言えないですね」

森「でしょ!!桜舞い散る中を走っていく人々…」

ソ「そこにゾンビが出現して、人々を襲い出す様子が見える…」

ナ「それ知恵ちゃうやろ…やりたいだけやろ」

森の人が出した、マラソン案とは、この地にマラソン大会を誘致するという事だった。

今や空前の健康のためのマラソンブームであり、全国にマラソンコースの設置が増えているらしく、比較的簡単に誘致可能なことが利点らしい。

サ「桜ヶ池マラソンとか、名前だけ聞いたらありそうですもんね」

長「あるある感は大事」

キ「結構、人も集まるみたいですね」

ソ「桜ヶ池ウォーキングデットじゃダメ?」

ナ「1人でやれや!」

キ「はっ…私にも囁きが…攻略マップを…作れ…」

ナ「攻略マップ?」

キ「すべてを数値化せよ…可視化せよ…」

森「キツネがつぶやき続けると怖いな」

長「数値化と可視化は制作の基本」

ソ「やめてっ!!!聞きたくないっ!!!」

サ「桜ヶ池の桜の整備状況を数値化して、進行具合を分かりやすくするってことですか?」

ナ「それはいいかも。進んでいる感は、続けていく上でのモチベーションにもなるし」

長「どういうペースで進めれば期限内に終わるか逆算するのも制作の基本」

ソ「いやっ!!!今は思い出したくないっ!!!」

森「ソーマ君、あきらめな…」

キツネの娘が出した、桜ヶ池クエスト攻略マップ案。

これは言わば目標と達成度を分かりやすくしつつ、この壮大な物語の進行具合を年々更新していくという事だ。確かに良い案だと思う。特に攻略マップというネーミングが好き。

ナ「見習い勇者は何か無いの?」

サ「いっぱいSAKE飲んだから、いっぱい知恵も授かったでしょ?」

ソ「サコディがいっぱいいっぱい言うから、おっぱいパッド思いついた」

森「死んでしまえばいいよ」

キ「理解に苦しみます」

ソ「じょ、冗談だよ…」

ソ「俺が思いついたのはね、地元の小学校や中学校を巻き込んで、子供たちと桜ヶ池の事について学んだり、一緒に整備活動したり、ネイチャースクール開いたりとか。こないだ青年部の人たちと話していたら、お子さん達が通っている方たちもいたし、秋のクエストの時に高校生の子も参加してくれていた事を考えると、興味を持ってくれれば長期的に協力してくれるようになるんじゃないかなーと」

ナ「…えーと」

サ「なんというか…」

キ「お前、真面目か」

森「キツネの無表情ツッコミ」

長「さすがは、聖なる賢者の知恵じゃ」

見習い勇者ソーマの小中学生と一緒に活動案。ふと思い出すと、自分自身が子供の頃、良く分からないけど、ある日突然、地元の公園の清掃をしたり、地域の方と交流したりというイベントのようなものが大なり小なりあった気がする。

今思えば、あれも地域活動の一種で、無意識的に地元と向き合う機会になっていたのではないかと思ったのがきっかけである。

長「さて、次はワシじゃな」

ソ「え、長老もあるんですか?」

森「長老はもういいですよ。ヤギとか某バレーとかで。お腹いっぱいなんで」

長「なんじゃと!!ワシは聖なる賢者の知恵など頼らずとも、常に溢れ出る泉のように…」

サ「泉のように難題を出すのはやめて下さい!」

ナ「一応、聞くとなんですか?」

長「絵本」

ソ「絵本?何の絵本ですか?」

長「君らの活動を絵本にしたい」

私は一瞬思った。

こんな平均年齢37歳のおっさん4人とキツネの娘が主人公の“絵本”を作るだなんて、

丑松を越えている。きっとチュパカブラまんじゅうの在庫の山を越えてしまう…。

ソ「社長…いくらなんでも絵本はちょっと…」(←動揺して世界観設定を忘れている)

キ「それ誰得なんですか?」

キツネの娘。ズバッと言い過ぎだ。

そして、俺に聞かないでくれ。俺だって聞きたいよ。

 

長「…ダメ?」

ナ「ダメというか、絵本って、子供が読むものですよね?この活動をそのまま絵本にしても子供じゃわからないんじゃ?」

長「ちがう、ちがう。君らの活動や君らのキャラをデフォルメして、子供たち~大人までが読んでも楽しめるような物語に変換した“絵本”を作りたい」

森「最近あるよね、大人でも読める絵本とか」

サ「確かにありますけど、そういうのって芸術色も強いですし、難しいジャンルですよ」

社長…じゃなくて、長老から出た絵本案。

サクラクエストで言えば、サンダルさんというキャラが劇中で作っていたものだ。

しかし、我々の地味な活動をそのまま描いても面白くないので、桜ヶ池クエストを元にした、新しい物語を創造し、勇者達の冒険記として残していきたいという事だ。

ハードルは高いが、挑戦してみるのは面白いと思う。

サ「絵本でまっさきに思い浮かぶのは、アンデルセンの童話とか日本昔はなし系かなぁ」

森「あとイソップとか?」

キ「でも、そういうのって子供への教訓とかですよね」

長「あんまり説教臭くはしたくない」

ナ「ソーマさん、何か思いつく話ないの?」

ソ「んー、キーワードは、桜、聖剣、勇者。だとすると、おじいさんが切った桜の木から産まれた勇者が、森の精とサルディと仲村犬とキツネをお供にして、桜ヶ池に浮かぶ、天空のお城に魔王を倒しにいく話とか?」

森「よくそんだけ瞬時にパクれるな。ある意味、感心する」

このあと、“絵本”のネタになる良い案をひねり出す為に、SAKEという名の聖水を飲み続けた結果、

勇者達は全滅した。

 

…その後、勇者たちのすがたを見たのものは いない…。

 

以下はサコディのカバンに残っていた議事録

来年以降の新規活動案

・桜ヶ池マラソン誘致案

・桜整備状況を可視化する攻略マップ制作案

・勇者おっぱいパッド案(却下)

・小中学校への協力要請案

・桜ヶ池クエスト絵本化案

※絵本の内容は検討継続だが、家庭を持つ勇者が、嫁に怒られながら子育てと世界を救うことの狭間で揺れ動くイクメン物語。その名も「世界を救う暇あったら、子育てしろよ」という案が出た。

 

次回

いよいよ、冬のイベント詳細を発表!!

雪に閉ざされた桜ヶ池でいったい何が行われるのか?

来年も、乞うご期待!